オフィスでデスクに座っている2人のプロフェッショナル。

金銭的報酬のみにフォーカスした人材獲得戦略では、より高い年収を提示した競合他社に優秀な人材を引き抜かれやすいといった面があります。近年、人々は仕事で得られる金銭的報酬だけではなく、自分が働きやすい環境か、会社の価値観に共感できるか、成長する機会があるかなど、非金銭的報酬をより重視するようになってきています。
 

金銭的報酬から非金銭的報酬へ

リクルーティング業界の大手として、私たちは常に「転職希望者は企業に何を求めているのか?」という問いかけをしています。高い年収や充実した手当などが求められていることは確かですが、優秀な人材は金銭的報酬以上のものを企業に対して求めるようになってきています。実際、ミレニアル世代の92%は、ビジネスにおける成功は利益だけでは測れないと考えています。

このような各業界のエリートたちは、個人としても社員としても成長できる場を求めており、最も優秀な人材を獲得するためには、企業は働く環境や企業文化の改革など内部から変えていくことも求められているのです。
 

優秀な人材が転職先に求めていること

活気のあるダイナミックな企業文化

優秀な人材が最も重視する要素の一つとして、企業文化が挙げられます。マイケル・ペイジの採用・転職ガイド「人材トレンド 2021」の調査では、活気ある企業文化は、1965年以降に生まれたX世代、Y世代、Z世代のいずれの世代においても、転職活動の際に考慮する項目のトップ3に入っています。

これらの世代の人材は、自分が企業の価値観に共感できる企業で働きたいと考えており、そのような人材は企業の使命にコミットする献身的な社員ともなります。マクロレベルで企業文化を改善するためには、それぞれの社員の職務と事業目標を結びつけ、社員の貢献をしっかりと評価・表彰する体制を整えることが重要です。それによってチームで協力して働く意識や仕事を進める上での透明性、そして企業への信頼を高めることができます。

もっと小さな規模で言えば、チームランチを企画したり、柔軟に在宅勤務ができる体制を整えたり、さらには育児休暇を増やしたりといった簡単なことでも、企業文化を強化させることにつながります。規模の大小に関わらず、これらの取り組みを積み重ねることで、経営陣から従業員まで、組織のあらゆるレベルでポジティブな企業文化が醸成され、それが根付くようになるのです。

企業文化が優れていれば、企業のブランディングは向上し、その結果、あなたの会社は優秀な人材にとってより魅力的なものに映ります。企業の口コミサイトであるGlassdoorの「企業の採用担当者向けの統計データ 2020年度版」によると、ほぼすべての社員(93%)がサイト上のレビューで企業文化について言及しており、社員にとって企業文化がいかに重要であるかが示されています。また、同レポートによると、企業文化の項目を含む企業の総合評価が1段階上がると、会社への応募数は、給与水準を年間1万ドル(110万円ほど)引き上げる場合の6倍にものぼることが分かっています。

ダイバーシティ&インクルージョン

企業の文化や価値観に加えて、優秀な人材は、その組織の中で自分がどのように成長できるか、そしてその組織に根付いた偏見や固定観念によって疎外感を感じるようなことがないかについて知っておきたいと思うでしょう。

世界中でコンサルティング事業を展開しているデロイト社によると、ミレニアル世代は、多様性を重視する企業に長く在籍しています。ミレニアル世代よりも前の世代とは異なり、これらの若年層は、企業がダイバーシティ&インクルージョンに価値を置くことが極めて重要であるという考えの中で育ってきており、転職先を決める際にその点を考慮します。

多様性に富むチームは、社員の士気と幸福度を高めますが、職場での社員のポジティブな言動を促すのは、それぞれの個性が受け入れられていると感じられる「インクルーシブ」な職場環境です。ダイバーシティとインクルージョンの両方が達成されることで、社員の企業に対するロイヤルティが高まり、企業文化とブランディングの向上にもつながります。

現代の企業組織でチームで協力して働くことの重要性がますます高まってきている中、多様性を尊重することの大切さが改めて認識されるようになってきています。また、多様な人材を効果的に採用し、維持している企業は、業界内での競争優位性が顕著に高いことを示す十分な証拠もあります。ロイターのダイバーシティ&インクルージョン・インデックスによると、GAP、ロレアル、ネスレなどの大手企業がこのコンセプトを取り入れています。

さらに、ジェンダーおよび人種の多様性が高い企業は、常に同業他社よりも最大で21%も高いパフォーマンスを上げており、そのことは最も優秀な人材の関心を引くことにもつながります。男女の賃金格差の見直しや多様な考え方の奨励、差別を禁止するポリシーの強化、昇進の機会におけるバイアスの排除などの取り組みは、企業が取り入れるべき優れたプラクティスです。逆に、社員が職場で本来の自分を出すことへの不安を感じている場合、社員のモチベーションやエンゲージメント、定着率、さらには新たな人材の確保にも悪影響を与えかねません。

キャリアアップの機会

優秀な人材は、常に学習意欲と向上心を有しているため、キャリアアップの機会があることは、彼らが企業に加わる大きなモチベーションとなります。弊社の「人材トレンド2021」の調査によると、新卒社員から部長レベルまで、あらゆるレベルの社員が離職を決める理由として、成長の機会がないということがトップ3に入っています。

キャリアアップの機会は、メンター制度や研修を通じて提供され、人材獲得戦略の重要な要素です。このような取り組みによる恩恵を受けるのは社員だけではありません。企業も、社員のエンゲージメントや定着率が向上する、知識の共有もより活発に行われるようになるといった恩恵を受け、それによって優秀な人材を惹きつけるための企業ブランディングも強化されることになります。一対一のミーティングやオンライントレーニングを定期的に行い、既成概念にとらわれない考え方や社員の成長を奨励することは、社員のキャリアアップの機会を促し、チームと組織全体の成長にもつながる優れた方法です。

残念なことに、新型コロナウィルスのパンデミック以降、キャリアアップの機会は減少しています。この間におけるアンケート調査において、企業で働く回答者のうち49%が、キャリア開発の機会やメンターとの話し合い、研修がかなり不足していると感じています。

人材獲得のために経営陣ができること

優秀な人材を獲得するために、企業の経営陣が重要な役割を担うことを忘れてはなりません。社員、チーム、会社の利益のために率直に発言する誠実なリーダーは、企業の成功を加速させ、社員を力づけることができます。結局のところ、チームで協力し合って仕事を進めるコラボレーションが最もうまく機能するのは、マネジメントと現場との間で互いにフィードバックや評価、コミュニケーションが絶えず行われているときです。このようなマネジメント・オブザベーション(MO)が実践されていれば、経営陣と社員の長期的な信頼関係が構築されるほか、良好な職場の人間関係も育まれ、最終的には社員の定着につながります。

また、経営陣は社員がリスクを取ることを奨励すべきでしょう。それによって、新しいアイデアや機会が生まれやすくなるためです。 社員が失敗して学ぶためのスペースを確保しておくことは、社員の視野を広げ、キャリアの向上にも繋がるため、最も優秀な人材を惹きつけやすくなります。 ダイバーシティ&インクルージョンもまず経営陣が奨励し、先入観を持たずに優れた人材を採用するだけでなく、それぞれの社員が職場で受け入れられていると感じられるための取り組みを行うことで、生産性の向上や事業目標の達成を促す健全な職場環境を育むことができます。

非金銭的報酬にも注目

優秀な人材は、そうでない人材に比べて最大8倍も生産性が高いと言われています。このため、一流企業が最も優秀な一部の人材のみに目を向けるのは当然のことと言えるでしょう。金銭的報酬はオファー承諾を促す魅力的なインセンティブとなりますが、企業文化、ダイバーシティ&インクルージョン、キャリアアップの機会など、金銭で支給されないタイプの非金銭的報酬も同様に、優れた人材が企業のオファーを承諾するかの最終的な判断に影響を与えかねない重要な要素となっています。 


人材トレンド2022でも非金銭的報酬について取り上げています!